プレスリリース

深刻な小児エイズ

深刻な小児エイズ
先日、小児AIDSを考えるシンポジウムに出席した。
日本ではまだ深刻な問題になっていない子供のAIDSではあるが、今後に備えようというものであった。

昨年八月、医学部の学生とともにタイを訪れ、AIDSの状況を視察する機会があった。
バンコクの交通渋滞と排気ガスのひどさに驚きながら、さっそくAIDS関連の施設を訪ね、多くのドクターから話を聞くことができた。
AIDSの権威であるチュラロンコーン大学のプラパン博士のAIDS外来も見学させていただいた。
患者の多くは、ごく普通の若者たちであった。

タイにおけるAIDSの問題は社会経済状況と深くかかわっており、地域による経済格差がその根底にある。
貧しい北部や東北部から若い女性が大量に首都に流れ込み、結局は売春という"産業"に組み込まれていく。
感染者の多くは子供をつくる年代の若者である。
従って現在小児AIDSの問題が深刻化している。
AIDSに感染した母親から生まれる子供の二〇~三〇%が感染するとされているが、感染を免れた子供達も結局は親を失い、AIDS孤児という過酷な運命が待ち受けている。

ある統計によれば今世紀末にはタイ全体でのAIDSの感染者は三百万人にもなるという。
また、WHOの統計によれば西暦二〇〇〇年までに世界中で一千万人のAIDS孤児が発生するという。

私達は十日間バンコクに滞在し、帰る頃には、猛烈な勢いで経済発展を続けるこの国の人々のバイタリティーに惹(ひ)かれるようになっていた。
しかし一方で、環境問題とAIDS問題に払わなければならないであろう犠牲の大きさを思うとやりきれない気分だった。
(平成5年3月12日 産経新聞掲載記事)