プレスリリース

若手医師の苦労と喜び

若い先生たちは大学病院の他に関連病院の当直もノルマになっているため、最低週一回、多いときは二、三回の当直が回ってくる。
卒業後五年目になるA先生のある日の当直日誌から-。


≪その日は千葉県のある病院の当直であった。少々疲れ気味であったので、心の中ではあまり患者が来ないことを願っていた。九時ごろまでに風邪による発熱患者を二人みて、十一時過ぎにはベッドに入っていた。
夢の中で電話のベルを聞いて、目が覚めたのは午前二時過ぎであった。
救急車で六ヶ月の赤ちゃんが運ばれてきていた。
途方にくれた顔をした若い母親が赤ちゃんを抱いて診察室に入ってきた。
火がついたように泣きはじめ、止まらないとのことであったが、既に赤ん坊は泣きやみ、スヤスヤと眠っていた。一応診察し、特に異常がないことを伝えると、申し訳なさそうに両親は帰って行った。

イライラしながらも仕方ないと言い聞かせ、再びベッドに横になった。
しかし、なかなか寝つかれず、うとうとしているうちに再び電話のベルが鳴った。

今度は十ヶ月の赤ん坊が吐いて、血便も出ているという。腸重積であった。
この病気は腸が腸の中に入り込み、腸閉塞をきたし、手遅れになると手術しなければならない重大な救急疾患である。

赤ん坊は腹痛のため激しく泣き叫んでいる。 悪戦苦闘の末に、レントゲンテレビに腸閉塞が解除された様子が映し出された。
途端に赤ん坊は泣きやみ、間もなく安らかな顔をして眠ってしまった。
すべてが終わったころには夜も白みはじめていた。
大学での仕事が待っているため、八時半には常勤の先生と交代して電車に飛び乗った。体は綿のように疲れていたが、ちょっぴり幸せな気分であった≫
(平成5年2月19日 産経新聞掲載記事)