プレスリリース

無視できぬ「民間療法」

いわゆる民間療法について患者さんから質問を受けることが多い。
巷(ちまた)にはありとあらゆる民間療法があふれている。飲み薬から宗教的色彩の強いものまで、実にさまざまである。
病人が出たと聞きつけると、こんな良い薬や治療法があると勧めてくれる。
病気で悩んでいる本人やその家族は不安にさらされており、病気が重大なものであればあるほどワラにもすがりたい心境に陥っている。
その心理の隙間(すきま)に話が持ち込まれる。健康な人たちには、にわかに信じがたい治療法でも、当事者にとっては救いの神のように感じられるのである。

私は専門がら、白血病やがんの子供たちをみる機会が多いが、治療以外にもさまざまな問題が発生するため、定期的に親に集まってもらい、話し合いを行っている。
あるとき、民間療法を取り上げたところ、三人に二人は民間療法を勧められており、その半数の患者さんが実際に試した経験をもっていた。
近代医学は、攻めの医学であり、治癒(ゆ)を目指し、あらゆる治療が試みられる。当然のことながら治療がうまくいかなかったり、副作用に悩みながら闘病している人も多い。
民間療法に頼る人々を一概に批判することはできないのである。

私は患者さんから民間療法について相談を受けた場合は、まず内容を聞いてあげることにあいている。
患者さんの中には医師を信頼し、その治療法に従いながらも自らも何らかの努力をしたいと考えている人が多いからである。
そのうえで、相談された治療法の矛盾点や不明確な点を説明し、後は私たちが行っている治療に支障がない限り、患者さんの判断に任せることにしているが、残念ながら、人の弱みに付け込むような話が多いのが現実である。
(平成5年1月22日 産経新聞掲載記事)