プレスリリース

小さな命の危機に

二年前の十二月二十九日のことだった。年内の仕事を済ませ、久しぶりに家でのんびりしていた午後、電話が鳴った。
関連の病院に白血病の疑いがある子供が緊急入院し、今から救急車で送られてくるという。
困ったことに、病院は年末の休日体制に入っており、十分な検査ができない。
血液検査室の主任に電話し、若い人の応援をお願いしたところ、彼女は遠方に住んでいるにもかかわらず、即座に「わたしも行きます」と返事してくれた。
われわれが、その三歳の患者に会ったのは夕方だった。
貧血が強く、ぐったりしてベッドに横たわっていた。
直ちに骨髄検査を含めた詳しい検査にとりかかり、夜遅くすべての結果が出そろった。急性リンパ性白血病だった。
母親は妊娠中であり、お腹の赤ちゃんのことを考え、病名を告げるかどうか迷った。幸い白血病の中でも治癒が期待できるタイプであったため、父親と相談のうえ、母親にも正直に説明した。
しっかり受け止めてくれて、「頑張る」との答えであった。

実は、ちょうどその一年前にも、同じようなケースがあった。
白血病で入院してきた少年の母親は、やはり妊娠中だった。幸い、治療は成功し、同時に母親は元気な赤ちゃんを出産した。そのお母さんにも応援をお願いしたところ、すぐに病棟にかけつけてくれ、"先輩"としてアドバイスし、励ましてくれた。
新しい命を感じながら、一方でもう一つの大切な命が危機にさらされていた。

あれから二年。五歳になった少年は、だれよりも元気に外で一日中遊び回っている。外来にはあの後に生まれたかわいい妹とやってくる。治療もこの暮れにすべて終了する。
今年の暮れこそ、何もないことを祈っている。
(平成4年12月25日 産経新聞掲載記事)