プレスリリース

小児がん経験者の話

故郷に帰って小児科内科クリニックを開業して、早いもので3年が経ちました。
この間地元の皆様には物心両面でいろいろお世話になりました。おかげさまで今ではすっかり地元になじみ、快適に仕事に専念できるようになりました。
あらためて皆さんにお礼を申し上げます。 さて、私は医学部を卒業したら早い時期に帰って地元の皆さんのために働こうと考えていました。
ところが医学部の5年生の病棟実習で受け持った3歳の白血病の男児に出会ったことがきっかけで小児医なることを決意しました。今振り返っても運命的な出会いでした。

当時、1970年代後半は白血病といえばまだ、不治の病という時代でした。その子は、とても利発で可愛い子でした。
ご両親の悲嘆は想像を絶するもので、学生でしたがなんとかしてあげたいという気持ちになりました。
順天堂大学を卒業後小児科医になり、約20年にわたり子供の白血病や小児がんの診療に従事してきました。
この間の医学の進歩は素晴らしく、いまや小児がんの70%は治る時代になりました。多くの病気の子供たちに接し、その家族とも交流を持ってきました。
小児白血病は3~6歳くらいに発症することが多く、今や私達が治療にかかわってきた子供たちの多くが治癒し、成人になりつつあります。
実際に社会人として活躍している人も少なくありません。中には看護師や医師になった人もいます。

その一方で、様々な問題もあって苦労している患者さんも少なくありません。
小児がんに対する社会の認識不足のため実際に治っているのに入学や就職の際、差別を受けたり、また治療による慢性的な副作用(晩期障害)に苦しんだりしている人もいます。
晩期障害は投与された抗がん剤や放射線照射が原因で起こりますが、具体的には輸血によるC型肝炎、成長障害、神経障害、側湾症、心理社会的問題など多岐にわたります。
厳しい治療により治癒した後も様々な障害と闘わねばなりません。

私は1988年に順天堂大学に小児がん経験者のための長期フォローアップ外来を日本で初めて開設しました。
対象は高校生以上になった元小児がん患者ですが、彼らのほとんどは元の病気は治っているものの、晩期障害や様々な心理社会的問題を抱えているために、この外来で診察のみでなく様々な相談にのっています。
未だ多くの施設では病気が治った後のケアは十分ではありません。

私が高知に帰った後も第2,4木曜を休診にして上京しているのは、この外来を継続するためです。
小児白血病は薬の投与のみで治った最初のがんであり、近年のがん治療のサクセス・ストーリーの最たるものとされています。
子供の場合、病気を克服した後の人生は長く、思春期の悩み、晩期障害の問題、小児医療から成人医療への移行など問題は山積しています。
上京の際は朝1番の飛行機に乗ると順天堂には10時に着きます。午前、午後と外来で彼らの話を聞いて、翌朝1番の便で帰ると10時過ぎからクリニックでの診療が可能です。
こうして開院前に計画していたことを3年間やってきました。もう少し頑張って小児がん経験者の将来を見守りたいと思っています。
(平成16年 日章公民館ニュース)