プレスリリース

子供の病気・生活アーカイブ

子供の生活習慣

親が子供にあげる最高の贈り物のひとつは正しい生活習慣を身につけさせてあげることだと思います。昔からしつけと呼ばれていたものです。
今や成人の最大の健康問題は生活習慣病といえますが、この生活習慣の多くは幼児期にできるといっても過言ではないでしょう。
つまり生活習慣病の一部は小児期から始まっているといえます。
その中でも最近、特に小児科医の間で注目されている食事の習慣と、テレビ視聴の問題について今回は書いてみます。

食事の習慣について
最近、朝食をとらない子供が増えています。ある調査によれば、3歳児の25%、小学生4の7%、中学生1年生の13%は朝食を食べてないとされています。
朝食を食べない子供は食べている子に比べると小学校低学年までは、身長が低く体重も少なくなります。
ところが、学年が進むにつれて徐々に体重が増えて、小学校4年になると、むしろ肥満傾向になることが最近の研究で明らかにされました。

その理由を明らかにするために生活習慣を詳しく調べた結果、この子供たちは夜遅くまでテレビを見ていたり、夜食を食べたりして、就寝時間が遅いために、結局は朝起きられなくなり、朝食を摂ることができなくなっていることが分かりました。
また、その子供たちの親も夜更かしで、朝食を抜いていることが多いのが実情です。

さらに、1年生以降は長時間テレビを見たり、ゲームをしたりして、外で遊ぶ時間が少なく、運動不足となり、結局肥満児なってゆくのです。
つまり朝食を欠食する習慣は3歳頃からみられ、その他の様々な生活習慣と連鎖し、小学校4年以降の肥満を引き起こすらしいことが分かりました。
テレビ視聴と小児の発達
最近、新しいタイプの言葉の遅れが問題になっています。
この子達は親の言葉に反応しない、表情に乏しい、自分の考えを言葉で表現するのが苦手でコミュニケーションに問題を抱えています。
一見自閉症の症状に似ています。しかし、よくよく親の話を聞いてみると、生れた時からずっとテレビやビデオがついている環境で育てられていたり、何らかの家庭環境の変化で生後1年頃からテレビ漬けだったことが明らかにされています。
乳幼児期は親子の生身の接触が最も必要で重要な時期です。この時期にテレビからの一方的な情報に赤ちゃんをさらし続けると、肝心な心の発達に支障をきたすことは容易に想像できます。
これは良質とされている教育番組やビデオ教材でも同じであると言われています。

こうしたことが原因で言葉の発達に遅れがある場合は、テレビを消して親が子供と1対1で遊ぶことが唯一の解決法とされています。
重要なことは早い時期に気付いてあげることで、1歳までなら1ヶ月で見違えるように表情が豊かになり、3歳までならよくなる可能性があるものの、時にコミュニケーションがとれないまま育つことあるとされています。
これらのことは現在まだ研究中で確定的でない点もありますが、いずれにしても長時間テレビを見たりゲームをしたりすることは子供の健全な精神発達にとって悪影響を与えることは専門家の一致した意見です。

そこで小児科医が中心になって、2歳まではテレビを消して、家族同士の豊かなコミュニケーションをつくることを提唱しています。テレビを見ない生活なんて考えられないと思われる方も少なくないと思いますが、やってみると意外な効果に驚いたとの反響が多く聞かれています。

夫婦の会話が増えたという話もよく耳にします。 食習慣とテレビ視聴は一見別の生活習慣のように思われますが、実はお互いに深い関係があることいえます。
子供たちのこれらの生活習慣は結局、親の生活習慣を反映したものであり、親がしっかりとお手本を示すことが、ひいては子供たちの長い人生にとっても重要な意味を持つことがお分かりいただけると思います。
(平成17年5月 日章公民館ニュース)

小児がん経験者の話

故郷に帰って小児科内科クリニックを開業して、早いもので3年が経ちました。
この間地元の皆様には物心両面でいろいろお世話になりました。おかげさまで今ではすっかり地元になじみ、快適に仕事に専念できるようになりました。
あらためて皆さんにお礼を申し上げます。 さて、私は医学部を卒業したら早い時期に帰って地元の皆さんのために働こうと考えていました。
ところが医学部の5年生の病棟実習で受け持った3歳の白血病の男児に出会ったことがきっかけで小児医なることを決意しました。今振り返っても運命的な出会いでした。

当時、1970年代後半は白血病といえばまだ、不治の病という時代でした。その子は、とても利発で可愛い子でした。
ご両親の悲嘆は想像を絶するもので、学生でしたがなんとかしてあげたいという気持ちになりました。
順天堂大学を卒業後小児科医になり、約20年にわたり子供の白血病や小児がんの診療に従事してきました。
この間の医学の進歩は素晴らしく、いまや小児がんの70%は治る時代になりました。多くの病気の子供たちに接し、その家族とも交流を持ってきました。
小児白血病は3~6歳くらいに発症することが多く、今や私達が治療にかかわってきた子供たちの多くが治癒し、成人になりつつあります。
実際に社会人として活躍している人も少なくありません。中には看護師や医師になった人もいます。

その一方で、様々な問題もあって苦労している患者さんも少なくありません。
小児がんに対する社会の認識不足のため実際に治っているのに入学や就職の際、差別を受けたり、また治療による慢性的な副作用(晩期障害)に苦しんだりしている人もいます。
晩期障害は投与された抗がん剤や放射線照射が原因で起こりますが、具体的には輸血によるC型肝炎、成長障害、神経障害、側湾症、心理社会的問題など多岐にわたります。
厳しい治療により治癒した後も様々な障害と闘わねばなりません。

私は1988年に順天堂大学に小児がん経験者のための長期フォローアップ外来を日本で初めて開設しました。
対象は高校生以上になった元小児がん患者ですが、彼らのほとんどは元の病気は治っているものの、晩期障害や様々な心理社会的問題を抱えているために、この外来で診察のみでなく様々な相談にのっています。
未だ多くの施設では病気が治った後のケアは十分ではありません。

私が高知に帰った後も第2,4木曜を休診にして上京しているのは、この外来を継続するためです。
小児白血病は薬の投与のみで治った最初のがんであり、近年のがん治療のサクセス・ストーリーの最たるものとされています。
子供の場合、病気を克服した後の人生は長く、思春期の悩み、晩期障害の問題、小児医療から成人医療への移行など問題は山積しています。
上京の際は朝1番の飛行機に乗ると順天堂には10時に着きます。午前、午後と外来で彼らの話を聞いて、翌朝1番の便で帰ると10時過ぎからクリニックでの診療が可能です。
こうして開院前に計画していたことを3年間やってきました。もう少し頑張って小児がん経験者の将来を見守りたいと思っています。
(平成16年 日章公民館ニュース)

子供の病気の特徴

今回は子供の病気の特徴について書いてみます。
まず大事なことは子供は大人を単に小さくしたものではないということです。
元気に遊んでいた子供が急に具合が悪くなり、一旦病気になるとその進行も早く、迅速な対応がなされないとありふれた病気でも命を失うことさえあります。
その一方で強い治療に耐える生命力も強く、適切な治療さえすれば回復も早いのも特徴です。
例えば嘔吐や下痢にしても子供は脱水になりやすく、ぐったりして受診しますが、1本の点滴ですっかり元気になり、笑顔が見られることもまれではありません。

子供の病気は年齢によって違う
子供はその年齢によって乳児、幼児、学童と分けられますが、同じ病気でも年齢によって原因や症状の出方が違ったりします。子供はよく感染症にかかり熱を出しますが、3ヶ月未満の乳児が38.5度以上の熱を出した場合は、重症感染の可能性が高く、少なくても血液検査を行い、場合によってはさらに詳しい検査を行い、敗血症や髄膜炎などの重症感染がないかどうか慎重に観察する必要があります。

細菌性髄膜炎は重症の感染症で死亡することもあり、また、救命しても神経学的な後遺症を残すことがあります。
この髄膜炎も乳児期早期、乳児期後期、幼児期で原因となる菌が違ってきます。
症状も乳児期ではたんに機嫌が悪かったり、オムツを替えるときにぐずってなくこともあります。
重症疾患であるのに特徴的な症状がないことがあり小児科専門医の診察が必要です。
子供病気は季節によって違う
8月、9月は病気も少なく、昔から柿が黄色くなる頃には医者が青くなるといわれています。
その一方で、冬のインフルエンザの流行時には100人を超す患者さんが押し寄せ、小児科医にとっても肉体的にきつい時期です。

感染性の胃腸炎(嘔吐下痢症)は1年中みられますが、冬から春先にかけて特に多く、原因はほとんどがウイルス感染です。
春先に流行する胃腸炎の原因はロタウイルスが多く、発熱を伴い便の色が白くなるのが特徴で、脱水になりやすく入院が必要になることも稀ではありません。

夏になると今度は病原性大腸菌、サルモネラ、キャンピロバクターなどの細菌によるものが多くなるので注意が必要です。
細菌性腸炎の場合は便に血液や粘液が含まれることが多く、便性を観察することが重要です。

また、5~6月や10月など季節の変わり目には喘息発作が急増します。
今はまさに喘息シーズンで当クリニックの吸入器も一日中大活躍しています。
上手な小児科のかかり方
小児科に子供を連れてくる保護者は多くは母親ですが、父親や祖父母が来ることもあります。
母親以外の保護者が来た場合、時に子供の病気の経過が良く分からないことがあります。
例えば一緒に来たおじちゃんは「嫁に医者に連れて行くように言われただけで、詳しいことは分からん」と言われ、子供に聞いても要領を得ず困ることがあります。
こういうと時はお母さんのちょっとした経過を書いたメモでもあれば小児科医としては大いに助かります。

やっぱり子供の様子を一番理解しているのは母親ですし、母親が子供の様子がおかしいという場合は、小児科医は特に慎重に診察をします。
実際に母親の感があたっていることが多いものです。
また、体に発疹が出た場合や、普段と違う便が出た場合はデジカメなどで撮って持って来てもらうと、原因がすぐに分かることがあります。
最近はカメラ付携帯も普及しており、実際に携帯で撮影した様子を見せてくれる母親もいます。

最大の問題は夜間や休日に病気になった場合です。
私も開院当時は、留守電に自宅の電話番号を入れて、救急の場合は対応していました。
しかし、患者さんが徐々に増えて、肉体的にも精神的にも夜間の対応はできなくなりました。
小児救急の問題はご承知のように全国的な社会問題となっています。

高知県ではこの問題に対応するために平成11年から高知市の急患センターで午後8時から11時までは小児科の専門医が診察するシステムができており、私もこれに参加しています。
それに11時以降の深夜帯は県立中央病院や高知医大などの6つの総合病院が輪番で対応するようになっており、いつでも小児科専門医の診察を受けることができます。
このような休日夜間の情報は救急医療情報センター(TEL 088-825-1299)に問い合わせば教えてくれます。
(平成17年9月 日章公民館ニュース)

深刻な小児エイズ

深刻な小児エイズ
先日、小児AIDSを考えるシンポジウムに出席した。
日本ではまだ深刻な問題になっていない子供のAIDSではあるが、今後に備えようというものであった。

昨年八月、医学部の学生とともにタイを訪れ、AIDSの状況を視察する機会があった。
バンコクの交通渋滞と排気ガスのひどさに驚きながら、さっそくAIDS関連の施設を訪ね、多くのドクターから話を聞くことができた。
AIDSの権威であるチュラロンコーン大学のプラパン博士のAIDS外来も見学させていただいた。
患者の多くは、ごく普通の若者たちであった。

タイにおけるAIDSの問題は社会経済状況と深くかかわっており、地域による経済格差がその根底にある。
貧しい北部や東北部から若い女性が大量に首都に流れ込み、結局は売春という"産業"に組み込まれていく。
感染者の多くは子供をつくる年代の若者である。
従って現在小児AIDSの問題が深刻化している。
AIDSに感染した母親から生まれる子供の二〇~三〇%が感染するとされているが、感染を免れた子供達も結局は親を失い、AIDS孤児という過酷な運命が待ち受けている。

ある統計によれば今世紀末にはタイ全体でのAIDSの感染者は三百万人にもなるという。
また、WHOの統計によれば西暦二〇〇〇年までに世界中で一千万人のAIDS孤児が発生するという。

私達は十日間バンコクに滞在し、帰る頃には、猛烈な勢いで経済発展を続けるこの国の人々のバイタリティーに惹(ひ)かれるようになっていた。
しかし一方で、環境問題とAIDS問題に払わなければならないであろう犠牲の大きさを思うとやりきれない気分だった。
(平成5年3月12日 産経新聞掲載記事)
医者と患者の関係は実に不思議なものである。
医者は患者の話を熱心に聞き、患者は一生懸命自分の病状について説明をする。
時には長時間にわたり、とうとうと訴え続けるものの、なかなか肝心なことを言ってくれないこともある。

ある小児科医の思い出話である-。
喘息の子供の家に往診に出かけた。急に発作が起こり苦しんでいるという。
この子は元々、家の埃や動物の羽毛に対するアレルギーを持っていた。
両親の話を聞いても、今回の発作の原因がよくわからないまま、薬を処方し家を出ようとした時、父親に「ところで先生」と呼び止められた。
「この発作は鴨とは関係ありますかねえ?」と聞く。
台所に案内されると、そこには最近少年のペットとして飼うようになった鴨がバタバタと飛んでいたという話である。
両親は枕の羽毛が喘息によくないと注意されていたが、それが実際に生きている鳥と結びつけられなかったわけである。

私にも似たような経験がある-。
六年前の夏のある日、九ヶ月の坊やが"とびひ"で外来を訪れた。
薬を処方して、母親が診察室のドアを開けて出ようとした時、急に振り向き、
「ところで先生、全然関係ない話なんですけど、この子の左目が時々光るんですけど何かありますか?」
と聞いた。
一瞬、どきっとして、改めてよく見ると、確かに目の奥が光っているように見える。
この"目が光る"という症状は暗闇で猫の目が光るのに似ていることから"猫目"と呼ばれ、網膜芽細胞種という恐ろしい目のがんの有名な症状である。
この子は母親がついでに言った"全然関係ない"一言で命が救われたわけである。

患者は往々にして一番肝心なことを最後まで言ってくれないものである。
(平成5年4月2日 産経新聞掲載記事)
五歳の男の子。
こう丸が腫れ、ある泌尿器科を受診した。
こう丸捻転の診断で緊急手術を受けたが、捻転は認められなかった。二日後に足に小さな出血斑が数個出現したが、こう丸の腫れも引いたため退院した。
しかし今度は右膝が腫れて歩けなくなり、出血斑も多数出現し、発症から八日目に私の外来を受診した。
アレルギー性紫斑病であった。
原因ははっきり分かっていないが、毛細血管に炎症が起き、その結果、血管がもろくなり、四肢に出血斑がでる病気である。
関節が腫れたり、腹痛で発症した場合などは虫垂炎と誤診されることもある。
こう丸が腫れることは極めてまれな症状であり、このケースでは泌尿器科での初診時の診断はほとんど不可能であったと思われる。

三歳の男の子。発熱と左足の激しい痛みを訴え、整形外科でのレントゲン検査と血液検査の結果、骨髄炎と診断された。
抗生物質の点滴投与を受けたが、症状は一向に収まらなかった。
手術をして膿を出す必要がある、とのことで私たちの病院を紹介された。よく診察してみると、お腹に腫瘤(しゅりゅう)が触れた。
診察は神経芽腫と呼ばれる悪性の腫瘍(しゅよう)で、足の痛みは骨転移によるものであった。
手術と抗がん剤の投与で、幸い腫瘍はすっかり消えて、今は元気に小学校に通っている。

この二人の子供のように、局所の症状でも重大な病気の一つのサインであることがある。
特に小さい子供の場合は自分の症状を正確に訴えられないことが多いので、医師は親の話をよく聞き、注意深く全身を診察することが重要である。
また親には、子供がさまざまな症状を訴えた場合、まず小児科医を受診することをお勧めしたい。
(平成5年5月14日 産経新聞掲載記事)
アメリカの骨肉腫の少女の父親から突然、国際電話をもらい驚いた。
乳児期に網膜芽細胞腫という眼のがんになり、その後骨肉腫を発症し、既に肺にも転移しているという気の毒な話であった。

以前私たちは、多発性の肺転移をきたした骨肉腫の患者さんが、抗がん剤の投与のみで肺転移が消失したという経験を論文に発表してあった。
それを読んでの問い合わせであった。
網膜芽細胞腫は乳幼児に発生する腫瘍(しゅよう)であるが、その一部で後に骨肉腫を合併することが知られていた。

最近、この二つの腫瘍が同じ遺伝子の異常で起こることが明らかにされた。
現在、がんは遺伝子の異常が原因で発生する病気と考えられている。
人の染色体上にはがんに関連する遺伝子がいくつかある。正常に働いている限り、人間にとって必要不可欠なものであるが、ひとたび異常をきたすと細胞増殖のコントロールがきかなくなり、がんが発生する。
遺伝子が活性化されることによりがんが起こるいわゆる"がん遺伝子"と逆にその機能がうまく働かなくなることによりがんが発生する"がん抑制遺伝子"とに分けられる。

子供のがんはこれらの遺伝子の一つか二つが異常をきたして発生する比較的単純なメカニズムが考えられ、大人のがんは複数の遺伝子が長い歳月をかけ徐々に障害されて悪性度の高い腫瘍へ進展するとされている。
がん予防のために、ストレスや不規則な生活を避けて、禁煙しお酒も飲みすぎないようにすることが勧められている。
結局これは悪しき生活習慣により、がんを引き起こす遺伝子を刺激したり、発がんを抑えている遺伝子を傷つけないようにとのアドバイスなのである。
(平成5年5月16日 産経新聞掲載記事)