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小児がん関連アーカイブ

小児がん経験者の話

故郷に帰って小児科内科クリニックを開業して、早いもので3年が経ちました。
この間地元の皆様には物心両面でいろいろお世話になりました。おかげさまで今ではすっかり地元になじみ、快適に仕事に専念できるようになりました。
あらためて皆さんにお礼を申し上げます。 さて、私は医学部を卒業したら早い時期に帰って地元の皆さんのために働こうと考えていました。
ところが医学部の5年生の病棟実習で受け持った3歳の白血病の男児に出会ったことがきっかけで小児医なることを決意しました。今振り返っても運命的な出会いでした。
当時、1970年代後半は白血病といえばまだ、不治の病という時代でした。その子は、とても利発で可愛い子でした。ご両親の悲嘆は想像を絶するもので、学生でしたがなんとかしてあげたいという気持ちになりました。

順天堂大学を卒業後小児科医になり、約20年にわたり子供の白血病や小児がんの診療に従事してきました。
この間の医学の進歩は素晴らしく、いまや小児がんの70%は治る時代になりました。
多くの病気の子供たちに接し、その家族とも交流を持ってきました。
小児白血病は3~6歳くらいに発症することが多く、今や私達が治療にかかわってきた子供たちの多くが治癒し、成人になりつつあります。実際に社会人として活躍している人も少なくありません。
中には看護師や医師になった人もいます。
その一方で、様々な問題もあって苦労している患者さんも少なくありません。小児がんに対する社会の認識不足のため実際に治っているのに入学や就職の際、差別を受けたり、また治療による慢性的な副作用(晩期障害)に苦しんだりしている人もいます。

晩期障害は投与された抗がん剤や放射線照射が原因で起こりますが、具体的には輸血によるC型肝炎、成長障害、神経障害、側湾症、心理社会的問題など多岐にわたります。
厳しい治療により治癒した後も様々な障害と闘わねばなりません。

私は1988年に順天堂大学に小児がん経験者のための長期フォローアップ外来を日本で初めて開設しました。対象は高校生以上になった元小児がん患者ですが、彼らのほとんどは元の病気は治っているものの、晩期障害や様々な心理社会的問題を抱えているために、この外来で診察のみでなく様々な相談にのっています。未だ多くの施設では病気が治った後のケアは十分ではありません。私が高知に帰った後も第2,4木曜を休診にして上京しているのは、この外来を継続するためです。
小児白血病は薬の投与のみで治った最初のがんであり、近年のがん治療のサクセス・ストーリーの最たるものとされています。
子供の場合、病気を克服した後の人生は長く、思春期の悩み、晩期障害の問題、小児医療から成人医療への移行など問題は山積しています。
上京の際は朝1番の飛行機に乗ると順天堂には10時に着きます。午前、午後と外来で彼らの話を聞いて、翌朝1番の便で帰ると10時過ぎからクリニックでの診療が可能です。
こうして開院前に計画していたことを3年間やってきました。もう少し頑張って小児がん経験者の将来を見守りたいと思っています。
(平成16年 日章公民館ニュース)
小児癌(がん)の治療成績は最近大きく改善したが、これは抗癌剤の進歩に負うところが大きい。
しかし、抗癌剤の投与にはさまざまな副作用がつきもので、中でも吐き気や嘔吐(おうと)はつらいものである。
また、抗癌剤投与後の白血球減少も重大な問題であり、その結果重症の感染症を合併し、時に致命的となることさえある。

ここ数年、これら二つの副作用を予防する画期的な薬剤が開発された。
抗癌剤による嘔吐のメカニズムはまだ十分に分かっていないが、セロトニンという物質が放出され、これが嘔吐中枢を刺激するのではないかと考えられている。
そこで、このセロトニンの働きをブロックする薬剤が開発された。
実際に投与してみると効果は絶大であり、以前は激しい嘔吐を訴えていた患者さんも軽い吐き気を訴える程度まで改善する。
本人はもとより看(み)ている家族にとっても大変な救いである。

もう一つの、そして最も重大な副作用は抗癌剤投与後の白血球減少である。
白血球の多くを占める好中球と呼ばれる細胞は最近を殺す働きを持っており、ヒトを細菌感染から守る重要な役割をしている。
血液中にはこの好中球の数を増やしたり、その働きを強めたりするG-CSFという物質があることが分かり、数年前バイオテクノロジーの技術を用いてこの物質が薬品として製造されるようになった。
抗癌剤を投与された患者さんに、このG-CSFを注射すると白血球減少の程度が軽減される上に、その期間が短縮される。
その分だけ感染の危険性が少なくなり、仮に感染を合併しても回復が早くなる。結果的に入院の期間も短縮されることになる。

この二つの薬は癌に対する直接の治療薬ではないが、患者さんの"生活の質"と治療成績の向上に大きく貢献している。
(平成4年 産経新聞連載記事)
癌(がん)早期診断する方法のひとつに腫瘍(しゅよう)マーカーの測定がある。
ある種の癌は、その癌特有の物質を産生するので、血液や尿中のこれらマーカーを測定することにより検診が可能となる。
小児の固型腫瘍の代表である神経芽腫はカテコールアミンを産生し、その代謝産物が尿中に排泄され、特異性の高い腫瘍マーカーとなる。
この腫瘍は四歳くらいまでの乳幼児に発生するが、多くは進行した状態で診断されるため、予後不良であった。

そこで、この腫瘍マーカーを測定してスクリーニングを行い、早期癌の状態で診断する試みが世界に先駆けて日本で始められた。
六ヶ月の乳児の尿をしみ込ませたろ紙を検査センターに送り、腫瘍マーカーを測定する方法である。
現在、全国で毎年約百万人の乳児がスクリーニングを受けている。その中から百件以上の患者が早期診断され、ほとんどが治癒しており、世界中から注目されている。

ところが、六ヶ月の検診では発見されず、一歳以降になって進行例として診断される患者が、いまだにかなり存在している。
一回だけのスクリーニングでは仕方がないことかも知れない。

検診でみつかる腫瘍と後に発症する腫瘍を詳しく調べてみると、かなり性格が異なることが最近明らかになってきた。
前者の多くは比較的おとなしい性格のものであるのに対して、後者は進行が早く悪性度が高い。どうやら神経芽腫は二つのグループに分かれるらしいのである。

いずれにしても、尿一滴で癌が早期発見できるようになったことは画期的なことである。
現在、一歳六ヶ月で再検査を行い、悪性度の高い腫瘍を早期発見する試みが行われている。
(平成4年 産経新聞連載記事)
子供の場合は白血病が一番多く、その他脳腫瘍、神経芽種などがあり、大人に多い胃がんや肺がんはほとんどありません。がんの種類が全く違います。
また、大人は4人に1人が、がんで亡くなるといわれますが、子供の場合は一番多い白血病でもその頻度は2万5000人に1人とまれな病気です。
従って、多くの施設が共同で治療方法を研究することがとても重要です。

子供の具合が悪いと親は過敏になりがちですが、どういう場合に気をつけたらよいでしょうか。

熱がぐずぐず続く、元気がない、顔色が悪いというような症状があります。
風邪かと思って、気が付きにくい事が多いのですが、長引く時は専門医にかかってください。
リンパ腺や腹が膨れていたり、実際に親が腹のしこりに気づくこともあります。
子供には成長痛などがありほとんどの場合、なんでもないのですが、白血病の子供100人に聞けば約3割は「足が痛い」と言います。いくつかの症状が重なっていると要注意ということです。

子供の場合、正確に症状を訴えられないうえに、進行が早いので、転移して見つかることも少なくありません。
早期発見は難しいですが、だからといって悲観する必要はありません。
「転移イコール致命的」というのは大人の場合で、子供の腫瘍細胞は薬や放射線による治療がよく効きます。全体の6,7割が治るようになりました。

後遺症などはどうですか。

晩期障害といって白血病などの治療の影響で後になって障害が出る場合が30%ほどあります。
成長障害、神経障害、心臓の障害、輸血後肝炎などいろいろな後遺症があります。
体に症状が出ていなくても精神的に不安定になるケースがあります。

平成11年6月30毎日新聞掲載<専門医 石本浩市さんに聞く>より抜粋
小児がんを克服した人たちを悩ませる「晩期障害」。
長期間にわたるフォローアップが求められるものの、まだその体制は不十分といわれている。
日本では数少ない晩期障害の長期フォローアップ外来を実践する石本浩市先生に、ケアの実情と展望についてうかがった。
小児がんを診るために小児科を希望
「医学部5年生の秋、臨床実習で受け持った白血病の男の子が、私の医師としての人生を決めたといっていいでしょう」
あけぼの小児クリニックの会議室で、石本先生は当時を振り返りながらひとりの患者さんのことを話し出した。
「その子はとても利発な子でしてね。3歳になる男の子でした」。

1970年代、白血病は不治の病に等しく治癒率は30%以下。告知を受ければ、死を意識せざるを得なかった。
罪もない子どもが理不尽な目にあう現実を前にして、若き日の石本先生は"小児科医になろう"と決断した。
白血病は小児がんの40%を占め、その80%が3~6歳までに発症するALL(急性リンパ性白血病)である。そして1万人に1人、毎年約2,500人の患者が新たに発生している。

「私が小児科医になった頃と比べると、今では小児がんの治癒率は飛躍的に向上しました。それは1980年代前半から、精力的なグループスタディが行われ、さらに化学療法や支持療法が大きく進歩したからです」

現在の小児がんの治癒率は80%近くまで向上し、失われていた多くの命が救われている。

「治癒率の向上は非常に喜ばしいことですが、忘れてならないのは治療終了後のQOLです。小児がんを克服しても、後になって晩期障害が出てくる人は半数近く、彼らの人生にとって大きな問題となっています」
長期フォローアップ外来の重要性
石本先生は毎月1回、朝7時35分高知発の羽田便に乗り、母校である順天堂大学医学部附属順天堂医院へと駆けつける。
午前中は小児科、午後は総合診療科の外来を担当。小児がんを克服した人たちの晩期障害のケアや心理社会的問題のケアに当たっている。

「輸血によるC型肝炎、また抗癌剤や放射線照射による後遺症が、成長障害、神経障害などさまざまな形であらわれ、小児がんを克服した人たちを悩ませています」
残念なことに、小児がんを克服して成人になった人たちの多くが、自分の病気について説明を受けていない。

「自分が大病を患ったことは知っていても、親や治療をした医師も肝心なことは教えてくれないため、大人になってから現れる晩期障害に対する適切な治療を受けられない人もいます」
総合診療科には、石本先生が担当した患者さんだけでなく、成人になってから小児がんであったことを知った人や、主治医と離れてしまったという患者さんも訪れる。
「小児期に受けた治療による晩期障害は、年齢とともに発症する頻度が高くなるため、生涯にわたるフォローアップ体制が非常に重要です。
ところが日本には、小児がんの晩期障害を長期的にフォローアップする外来は、まだほとんどないのが現状です」
期待される小児がん専門医と一般内科医の連携
成人した小児がん経験者の多くは、治療を受けた元の医療機関を受診しなくなり、身体の具合が悪くなった場合は、地元の一般内科医を受診すると思われる。
「晩期障害に関する問題が起きた時、自分の病気について知らない場合や、仮に知っていても、一般内科医が晩期障害について詳しくない場合が考えられます」
小児がん経験者のほとんどは自分の治療記録を渡されていないのが現状である。
記録が残っていないだけに、患者が自分の病気について正しく説明できるかどうかも疑問だ。
このような問題が想定される以上、一般内科医と小児がん専門医との連携が必要になってくる。

米国では、このようなケースに備えてChildren's Oncology Group(COG)が長期フォローアップについて、プライマリケアと患者用の情報を公開している。
現在、日本でも「がんの子どもを守る会」による「小児がん経験者のケアのためのガイドライン」が作成されているが、まだ小児がん専門医と一般内科医を連携するパイプはほとんど存在しない。
石本先生は「開業している小児科医、その中でも小児がんの治療に携わった経験のある全国の小児科医がプライマリケアを担い、必要に応じて地域の一般内科医に紹介するネットワークが現実的ではないか」と語り、「『がんの子どもを守る会』を通して行ったアンケートでは、「引き受けてみたい」と名乗り出る小児科医も予想を上回ったことから、小児がん経験者のフォローアップ体制の確立にひと筋の光が見え始めたところです」と微笑む。

石本先生が、あけぼの小児クリニックを開業したのは2001年。
今は小児がんの長期フォローアップを続けながら、地域でごく普通の小児科診療を行っている。

「医師を志した時から、早い時期に故郷で開業するつもりでした。実際には30年後に帰ってきたわけですが、医師になることを勧め、クリニック開業用の土地を守ってきてくれた母にも親孝行ができたと思っています。残念なことに、母は開業4ヵ月後に亡くなりましたが、きっと喜んでくれているでしょう」
会議室が一瞬しんみりとしたのも束の間、診療時間が近づいてきたのだろうか...。外からは子どもたちの声が聞こえ始めた。
スマートムンストーンキャンプ
毎年、小児がん経験者が寝食を共にして、悩みを共有したり励まし合ったりするスマートムンストーンキャンプが開かれている。
キャンプの名前は小児がんの治療に関りの深い細谷亮太先生、月本一郎先生、石本浩市先生の頭文字である「細」、「月」、「石」から付けられた。
多くのボランティアに支えられ、2007年には10回目のキャンプを迎えるが、今では小児がん経験者がその中心となっている。
はじめに
治療の進歩により多くの小児がん患者がキャリーオーバーしてきています。
小児がんと診断されて5年以上生存している人を従来、長期生存者と呼んでいましたが、この言葉に対しては当事者やその家族から違和感が唱えられていることから、最近、われわれは小児がん経験者という言葉を使うようにしています。
キャリーオーバーは他の小児難病と共通する現象ですが、小児がんには疾患特有の問題があります。
Ⅰ型糖尿病や膠原病など成人後も継続して治療が必要な疾患とは異なり、ほとんどの小児がんでは成人するまでに治療は終了しています。
しかし、小児がんの場合は治療の後遺症や心理社会的問題が経験者のその後の人生に様々な影響を残します。
特に、晩期障害と呼ばれる治療終了後にみられる後遺症が、約半数の患者さんに認められ、時に身体的問題にとどまらず、心理的にも大きな問題となっています。
こうしたことから、従来の治療に主眼を置いた医療から、長期的な展望に立ち、治療終了後のQOLを考慮した新しい診療システムが必要になってきています。
本稿では私たちが行っている小児がん経験者のための長期フォローアップ外来を紹介し、その問題点と今後の展望について述べてみたいと思います。
長期フォローアップ外来のシステム
1998年の時点で私たちが順天堂で診ている小児がん患者128人の年齢分布を5歳ごとに見てみたところ、
5歳までに24 人、6歳~10歳に32人、11~15歳に42人、16~20歳に21人で、20歳以上の人も9人いることが分かりました。
このデータは、われわれの施設でも早晩キャリーオーバー患者の対応に問題を来たす可能性を示唆しており、早急に対応すべき課題と捉えました。
そして、同年4月、長期フォローアップ外来を開設しました。
外来の目的は
  1. 晩期障害への対応
  2. 心理・社会的な問題への支援
  3. 他科との円滑な連携
  4. 健康管理教育
としました。
最後の健康管理教育については当初、余り深く考えていませんでしたが、後に喫煙者がかなりいることを知り、重要な課題と考えるようになりました。
喫煙の問題以外にも晩期障害の予防につながる適切な生活習慣の指導もフォローアップ外来で行うよう努めています。
対象は治療が終了した高校生以上の患者さんとしました。
また、彼らの年齢を考慮して、外来を小児科から総合診療科に移し、原則として、一人で受診するように指導しました。
実際の外来は小児科医が中心になって、ソーシャルワーカーにも陪席してもらい、様々な問題に柔軟に対応できるようにしました。
総合診療科の外来を使用するにあたっては、病院長や診療科と交渉して許可を得ました。
また、看護師や事務職員にも長期フォローアップの意義を理解して協力してもらえるように講習を行いました。
小児科医が対応できない問題が生じた時は適宜、他科を紹介し、その際、単に紹介状を書くのみでなく、時には小児科医やソーシャルワーカーが付き添って外来に赴き経過の説明を行いました。
実際に連携したのは血液内科、循環器内科、消化器内科、婦人科、脳外科、整形外科、泌尿器科、精神科などです。
これまでに通院したのは59名で、年齢は16歳~37歳で中央値は21歳です。経過観察期間は5年~37年で中央値が15年です。
この中には私たちが順天堂で治療した患者さん以外に、本外来の趣旨を知って紹介されたり、直接、受診されたりした患者さんも10人以上います。
告知については何人かの親は消極的でしたが、晩期障害や将来にわたる健康管理の必要性などを繰り返し説明し、結局、全員に告知をすることができました。

しかし、キャリーオーバーした小児がん経験者の中には告知されていない人が少なくないのが現実です。
結婚している方が8人いて、7人が女性です。2人の女性が健常な子供を出産しています。
疾患の内訳は、がんの患者さんが47例で急性リンパ性白血病(16人)が最も多く、急性骨髄性白血病(5人)や悪性リンパ腫(6人)などの血液腫瘍の他に網膜芽細胞種(8人)、脳腫瘍(3人)、横紋筋肉腫(2人)、神経芽腫(2人)、腎芽腫(2人)など様々な固形腫瘍の患者さんがいます。
その他、血液疾患が12例で再生不良性貧血や紫斑病も一緒に診ています。
晩期障害について
晩期障害は手術、化学療法、放射線療法などの治療が原因で起こる治療終了後の障害と定義されています。
晩期障害は原疾患の種類、患者の年齢、受けた治療法によりその頻度や種類が異なります。
予後良好な急性リンパ性白血病では比較的少ない一方で、脳腫瘍では、ほとんどの患者さんに見られます。
また、年齢が低い程、障害が出やすい傾向があります。
抗がん剤の種類により特異的な後遺症が知られており、特にアントラサイクリン系の抗がん剤による心毒性はよく知られています。
放射線治療の影響は線量が多い程、強く残り、造血幹細胞移植などの強力な治療では何らかの晩期障害は避けられません。
小児がん患者全体では約半数に何らかの晩期障害を認め、25~30%に複数の障害を認めることが報告されています。

実際に私たちの患者さんにも49人中25人に、ひとつ以上の晩期障害を認めています。
早期から見られた合併症としては下肢麻痺、出血性膀胱炎、Ⅰ型糖尿病、汎下垂体機能不全がありますが、その他のC型肝炎、心筋障害、低身長、無月経、早期卵巣不全、難聴、脊椎側湾症、大腿骨壊死などの障害は治療終了後、5年~10年以上経って出てきたものです。
特に無月経の人は乳児期に腹部に放射線照射を受けたことが原因で、20歳を過ぎた頃、生理が無くなった例です。
この方の母親が新聞で私たちの外来ことを知り、直接受診されました。
それまで本人は告知を受けておらず、元の医療機関からも離れ、産婦人科では早期卵巣不全と診断され、途方にくれた状態で受診されました。
乳幼児期の腹部照射が原因と考えられる早期卵巣不全の報告は海外では見られるものの、本邦では無く、われわれも大変衝撃を受けました。
大腿骨頭壊死の例は思春期に悪性リンパ腫の治療を受けた女性で、10年経って発症したものです。
これは思春期の女性にステロイドホルモンを投与した場合起こることが知られている合併症です。
このように晩期障害はいつ起こるかわからないところがあり、継続して経過観察を受けることがとても重要です。
元の医療機関と縁が切れて、カルテもない、主治医もいない、その患者さんの情報を知っている医療者が誰もいないということは避けなければなりません。
成人医療への移行
長期フォローアップ外来を立ち上げて7年が過ぎました。
この間、様々な成人医療の専門医に患者さんを紹介した経験から、結局、小児医療と成人医療は全く異質の医療であることを再認識しました。
われわれ小児科医は成長発達している子供を末広がりの視点で診ています。
乳幼児期から患者を診続けている小児科医はともすれば、患者の成長に気付かず、対応を誤る危険性も持っています。
キャリーオーバーの診療に当たる際はこの点を常に留意すべきでしょう。一方、成人医療の対象は自立した大人であり、実際にはほとんどが高齢者です。
ある意味で人生の終末のQOLを良くすることを目的とする医療ともいえます。従って、小児科医の元から急に成人医療の専門医に移行すれば戸惑うのは当然です。
この異質な医療の橋渡しは重大で困難なテーマです。
私はこの長期フォローアップ外来に通う数年間こそ、移行を円滑に行うための適当な準備期間になると考えるようになりました。

小児がん経験者の悩みは独特であり、成人医療の専門医に共感を求めることは期待できません。
われわれ小児医療のスタッフは必要な場合は適切に他科の医師を紹介して、彼らがそのまま小児科を卒業できればそれを見守りたいと思います。
その上で、彼らが何かにつまずいた際には、再度フォローアップ外来に戻り、一緒に解決法を考えるというスタンスが理想的だと思っています。
米国の取り組み
米国の取り組みを紹介します。
現在、Children Cancer Survivor Study(CCSS)という研究が進行中で、約15,000人の5年以上の長期生存者が登録されていて、さらに対照としてその兄弟も3,500人登録されています。
彼らを長期にわたり追跡調査して、晩期死亡の頻度と原因、二次がんの問題、喫煙などの生活習慣の問題、精神疾患の問題など様々なテーマで研究が進行しており、既に多くの論文が発表されています。
この研究を支えているのは、まさにサバイバーの人たちであり、彼らには常に最新の研究成果が反映されるように、ホームページ(http://www.cancer.umn.edu/ltfu)に年4回ニュースレターが掲載されています。

実際の長期フォローアップについては、全米を統括する小児がんの共同研究グループであるChildrens' Oncology Group(COG)がウエブサイト上(http://www.survivorshipguidelines.org/) にガイドラインを提供しています。

具体的には晩期障害については受けた治療法別に発生する可能性がある障害の種類、その危険因子、検査法や予防法などが詳細に紹介されています。
さらに小児がん経験者のために分かりやすい解説も見ることができるようになっています。
このサイトの利点は小児がんや晩期障害の知識が乏しいプライマリ・ケア医でも最新の情報にアクセスできることす。
小児がん経験者が彼らを受診しても、治療内容さえ分かれば対応ができるように意図されています。
これは、治療終了から時間が経つ程、元の専門医療期間を受診する機会が少なくなり、実際に何か問題が起こった時は、プライマリ・ケア医を受診することが多いことが調査の結果明らかになっているためです。
わが国の状況
一方、わが国では長期フォローアップ体制はまだ、ほとんど整備されておらず、晩期障害についてもまとまったデータがないのが現状です。
現在、4つの小児がんの共同研究グループが活動していますが、これらを米国のCOGのようにひとつにまとめる目的で2003年に日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)が発足しました。
その中に長期フォローアップ委員会ができて、全国各地からメンバーが選出され、わが国の現状に即したシステム構築に向けた活動が開始されました。
具体的にはわが国の晩期障害の実態調査、長期フォローアップのガイドライの作成、全国共通の治療サマリーフォーマットの作成、専門施設の整備などが検討されています。
おわりに
子供が、がんになるということはとても理不尽で辛い体験ですが、それでもプラスになることは少なくありません。
たくさんの小児がんの患者とその家族を診てきましたが、辛い経験を乗り越えて、本人が非常に精神的に成長して、家族の絆も強くなったという例を少なからず経験しました。
そのためには、もちろん適切な医療支援が欠かせません。トータルで継続的なケアが必要です。
医師と看護師の他にソーシャルワーカー、臨床心理士、病棟保育士、さらに最近はチャイルドライフスペシャリストが活躍している施設も見られます。
ボランテアの活動も広がっています。それに加えて大事なことは、本人とご家族が病気のことを正しく理解することです。

現状ではキャリーオーバーした患者さんで告知されてない方も少なくありません。親のほうも時期を逸してしまい、今更言えないと黙している人もいます。
しかし、自分のことを知らなくて、親のケアから離れてゆく思春期以降に自己管理ができるでしょうか。
親の会や当事者の会が果たす役割も益々重要になってきています。特に当事者同士の交流は、自らの物語を作るという作業を促し、彼らの成長に大きな意味を持っています。
さらに、彼らが社会に向けて情報を発信することは、現実の姿を知ってもらい、不当な差別を受けないためにも大切なことです。
こうして、あらゆる力が結集されて、小児がん経験者がよりよい人生を歩むことを願って止みません。
小児がんフォローアップ外来、開設7年
小児がんは約7割が治るようになり、治療終了後の新たな支援体制が求められる時代になった。
小児がん専門医の石本浩市医師(54)が、小児がん経験者たちのための長期フォローアップ外来を、全国に先駆け文京区の順天堂医院に開設し7年。
その取り組みや今後の課題について聞いた。
聞き手・川俣享子】
治療の後遺症、温かい目で
--小児がんは15歳以下で発症する悪性腫瘍(しゅよう)を言いますが、大人のがんとの違いは。
大人のがんは肺がんや胃がんなど管腔の表面の細胞が、がん化するものがほとんど。
子供には血液のがん・白血病が最も多く、リンパ節、交感神経節、腎臓、肝臓、筋肉、骨などにできる肉腫が多く、病気の種類が違う。
子供は正確に自分の症状を訴えられず、進行も早いため、転移した状態で診断されることも少なくない。
それでも、抗がん剤や放射線治療がよく効くので、治癒が期待できる。
--発症数は。
1万人に1人、年間約2000人から2500人が発症している。治癒率は70年代は3割、80年には半数に達し、現在は約7割が治るようになった。
小児がんを経験した成人は国内で1万人以上はいると推計される。
--生存者が増えた中での課題は。
治療終了後の子供たちのQOL(生活の質)が問われる時代になった。
しかし、現在治って成人している人の中には、病気の説明を受けていない人も少なくない。その中に治療終了後、何年もたってから障害が出てくる人もいる。
--それが晩期障害ですね。
抗がん剤や放射線照射など治療による後遺症だ。
C型肝炎、成長障害、神経障害、ホルモン分泌障害、不妊、心的外傷後ストレス障害など、なんらかの晩期障害は半数近い経験者にみられる。
--98年4月から長期フォローアップ外来を始めた理由は。
小児がんを克服した人たちの健康管理や晩期障害、心理社会的問題に焦点を絞ったケアを提供するためだ。
年齢を考慮して外来を小児科から総合診療科へ移して、小児科医が中心となり、ソーシャルワーカーにも協力してもらって、症状に応じて他の診療科を紹介している。
16歳以上の約60人が通院中だが、元の主治医と離れてしまったり、元の主治医が対応してくれない問題を抱えている患者さんも訪れている。
まだフォローアップ体制は遅れている。
--なぜ広がらないか。
多くの小児科医が必要と感じながら、治療の延長線上で小児科だけで対応してしまう傾向がある。
そうではなくて、他科とも協力して、治療終了後のQOLを考慮したサービスを提供する外来こそ必要だ。
今、私たちがやっているようなフォローアップ体制を全国に作ろうとする試みが始まりつつある。
--告知については。
今は本人に病気の説明をすることが一般的になってきた。告知していない場合は、晩期障害のことも考慮して、主治医ともよく相談してもらいたい。
「がんの子供を守る会」(電話03・5825・6312)では、ソーシャルワーカーが相談に乗ってくれる。
--社会に望むことは。
大変な経験をして小児がんを克服した人たちなので、人間的にも成長している人が多い。
なんらかの晩期障害があったとしても、普通の人たちと同じような温かい目で見守ってほしい。本人たちも、特別視されないことを望んでいる。
スマートムンストン・キャンプ
98年に始まったスマートムンストン・キャンプ。
病気を克服して成長する子供たちを毎年見守り続けてきた細谷代表・聖路加国際病院副院長と、石本浩市・あけぼの小児クリニック院長の両医師に聞いた。
聞き手・井上卓弥】
--今回は、初参加の小学生も目立ちました。
小さい子に対しても、告知が進んできたということだと思います。
普通の子どもでもなかなか行けない山登りを体験した子もいて、達成感はこれまでのキャンプでも一番大きかったんじゃないでしょうか。
--8年前と比べ、キャンプや小児がんを取り巻く環境は変わりましたか?
97年、(俳優のポール・ニューマンが主宰する)米国のキャンプに参加し、毎日新聞のキャンペーンで「日本でもやってみようか」と考えたのが最初でした。
当時は病気を告知された子がほとんどなく、ボランティアにも経験者は少なかった。
--参加者の平均年齢も20代でしたね。
グループ・リーダーもほとんどが経験者となり、代替わりしました。
自己管理できる病気の経験者、そういう人たちの存在を認めてくれる一般の人を増やすのが目標でしたが、それが少しずつ実現してきていると実感しています。
--これからの課題は?
2年前ぐらいから、キャンプでもようやく話が出てきた思春期以降の独特の問題があります。
放射照射や移植手術などの強い治療を施した場合、特殊な後遺症として不妊の問題が残る。同じ経験をした人でないと話せない。
担当医師は命を助けるので精いっぱいで、それから先にはなかなか意識がいかない。
--何かを犠牲にしなければならない場合でも、医者は何とか命を助けるから・・・・・・。
対象となる人たちは多く、時間の流れも長い。
問題を終生背負うこともあるから、相当大きなテーマです。
成人医療の専門医にはなかなか理解しにくく、小児科医がもう少し真剣に考えないといけない。
内科や産婦人科医に、考えについてきてくれる人たちを少数でもいいから作りたい。
両方で間の領域を埋める努力が必要でしょうね。
晩期障害とは何か
小児がんは、治らない病気から"治る病気"といわれるようになりました。
ところが、治癒した後に「晩期障害」という新たな問題が現れ、がんを克服した子どもたちの前にたちはだかっています。
晩期障害とは何か。
順天堂大学医学部付属病院(東京都・文京区)の「長期経過観察外来」でこの難題に取り組む石本浩市先生に、背景と実態、課題をうかがいました。
聞き手・医学ジャーナリスト 中安 宏規】
--私たちは小児がんの患者の7割を治癒させるというすばらしい結果を手にしましたが、一方であまり考えていなかった晩期障害が問題になっています。その背景は?
大人のがんの治療法は手術が中心ですが小児がんは抗がん剤投与や放射線治療の効果が高い。
進行性の場合も、抗がん剤を上手に使うと治るため、非常に強い治療が行われてきました。
そうした副作用が、治癒後に慢性的に出現するのです。
問題は乳児期から5~6歳にかけて発病するため、治癒後の障害が長い人生につきまとうことです。
さらに発育の過程で治療を行うことから障害が深刻な形で残ることです。
--具体的にどのような障害がでるのでしょうか。
白血病の場合、脳への再発を予防するため、頭部に放射線照射を行ってきました。
その結果、身長が伸びないとか、微妙な知的障害などが起きています。
現在では、この方法はハイリスクの限られたケースを除き、控えています。
おなかの患部への照射によって背骨が曲がることもあります。
--抗がん剤の治療でも晩期障害が発症しているのですか。
抗がん剤の中には、ある一定量以上投与すると心不全を起こすものがあります。
その水準を超えないようにしても障害が現れる場合があります。
深刻なのは、抗がん剤にはDNAを傷つけるものが多いため、別のがんを発病してしまうケースです。
たとえば、悪性リンパ腫の治療に抗がん剤を用いて白血病になった事例があります。
--晩期障害が現れるのは、実際にはどの位の割合ですか。
少なくとも治癒した子どもの30%、多い場合は50%に達します。
体に残る障害だけでなく、心に残るトラウマ(精神的外傷)も見逃せません。
さまざまな資料から判断しても30%~50%の後遺症が残り、子どものショックも大きいのです。
--そうした後遺症(晩期障害)は予想されなかったのですか。
ご存知のように、小児がんは20年ほど前までは不治の病でした。
副作用のことを考えるよりも、目の前で苦しむ子どもの命を助けることだけに集中していました。
やっと助かるようになって、ハッと気づいたら、命は助かったものの、体や心に傷跡が残っていた。
子どもが成長して社会に出ていくようになって、新たな問題としてクローズアップされるようになったのです。
--そこで先生は、順天堂大学在職中に「長期経過観察外来」を日本で初めて開設されたとうかがっています。
北海道の旭川医科大学の付属病院小児科に類似の外来があります。
順天堂大学病院の場合は、3年前に私が中心になって総合診療科の中に内科や産婦人科、小児科、精神科の医師とソーシャルワーカー、看護婦の協力を得て開設しました。
全員が問題の意義を理解してくれています。
実際のスタッフは、私とソーシャルワーカーの2人で、患者さんの病状に応じて協力者がチームを作り、治療を行う方式をとっています。
その意味では初の試みだったかもしれません。
--日本の医療制度では15歳までは小児科が担当し、それ以上は内科等の領域になっていますが、内科などにバトンタッチはできないのですか。
それがなかなか難しいのです。
内科の医師は、成人や老化に向かう患者さんを対象に診ています。
一方、小児科は発育していく過程の子どもをケアし、診るわけですから全く違う医療分野です。
内科の医師も患者さんも困るでしょう。しかも、晩期障害の場合は、生涯にわたって継続して診なければなりません。
--そこに小児科が責任を持つ長期経過観察外来の発憑があるわけですね。
趣旨はそうです。
しかし、小児科医がすべてに対応できませんから、小児科がキーバーソンになつて、問題が起きたときに各分野のスペシャリストに対応してもらう方式を考えました。
この問題で主治医が頻繁に代わることは、患者さんにとっても不幸なことですから、継続性を保つようにしなければなりません。
--今年7月から、高知県で開業されたそうですが...。
いろいろな事情から故郷へ戻りましたが、毎月2回上京して長期経過観察外来で患者さんと接しています。
今日も初診の若い女性から2時間ほど病状や経過を聞き、今後の対応を話し合いました。乳児期にがんを体験し、治癒したものの後遺症に悩まされていたのです。
このケースのように、この外来は訪ねた病院で解決できずに悩んでいる人を掘り起こす意義もあるのです。
--来春、国立小児病院と国立大蔵病院が統合して「国立成育医療センター」が発足、国の支援体制がスタートします。
お話ししたように、今後は小児がんを治せばよいのではなく、がんを持つ子供をトータルに診なければなりません。
以前からいわれていたクオリティ・オブ・ライフの重視が「やっと実現する」という感じで、こうした施設を各地に開設してほしいですね。
--社会への要望を聞かせてください。
子どもは子どもなりに病気と闘っています。
それをサポートし、子どもたちが苦難を乗り越えれば、社会に出て大きな力を発揮してくれると思います。
実際彼らの中には、医療関係を目指す子どもも少なくありません。
今後、こうした現場を身をもって知っている医師や看護婦、ソーシャルワーカーなど、その数が増せば、日本の医療界に与える影響は大きいでしょう。
夢がかなうよう社会の協力をお願いします。

【※晩期障害
抗がん剤や放射線照射などの強力な治療の副作用とみられる後遺症。
成長障害、神経障害、心臓・腎機能障害、輸血後肝炎、不妊のほか、精神的外傷も指摘されている。
子どもは治癒後も晩期障害の不安を抱えることとなり、小児がんが「子どものときの治療だけでは終わらない」といわれるのもこのためである。